部活動の地域展開(地域移行)自治体事例3選|成功に導く運営体制を解説
- 自治体
本記事では、部活動の地域展開(地域移行)の組織体制づくりについて、先行自治体の成功事例をもとに、自治体規模に応じた運営モデルや役割分担を解説します。
【本記事における名称について】文部科学省のガイドラインに基づく正式名称「地域展開」を基本として使用します。ただし、現場での認知度を考慮し、「地域展開(地域移行)」と旧称を併記します。
部活動の地域展開(地域移行)の制度や改革の全体像を整理したい方は、まず以下の記事をご覧ください。
SECTION 01部活動の地域展開(地域移行)における自治体の運営体制の課題
部活動改革は今、大きな転換点を迎えています。
これまで使われてきた「地域移行」という言葉は、令和7年5月の実行会議「最終とりまとめ」において地域全体で子供たちの活動を支えるという意図を明確にするため、「地域展開」へと名称が変更されました。
しかし、現場の担当者様にとって最大の課題は、名称の変化よりも「誰が、どこで、どの予算で運営を担うのか」という実務的な体制構築にあります。
改革実行期間(令和8年度〜10年度)に向けた対応の現状
文部科学省のガイドラインでは、以下のスケジュールが示されています。
| フェーズ | 期間 | 主な取組 |
|---|---|---|
| 改革推進期間 | 令和5年度〜7年度 | 実証事業等を通じたモデル構築 |
| 改革実行期間(前期) | 令和8年度〜10年度 | 地域クラブ活動の本格的な展開・定着 |
令和8年度からの実行期間では、休日の部活動だけでなく、平日の地域展開も見据えた持続可能な仕組み作りが求められます。
令和8年度時点の全国の進捗状況や普及率については、以下の記事をご覧ください。
自治体が直面する主な課題
多くの自治体では、以下のような運営体制の課題に突き当たっています。
- 専門部署の不在:教育委員会と市長部局(スポーツ振興課等)の連携が不十分。
- 人材の不足:現場を調整する総括コーディネーターをどこから確保すべきか。
- 組織の継続性:単発の補助金事業で終わらず、法人格の取得など恒久的な組織として維持できるか。
これらの課題を解決するためには、ゼロから組織を考案するよりも、先行自治体が試行錯誤の末にたどり着いた型を参考にすることが近道です。次のセクションからは、自治体の特性に応じた3つの代表的な成功事例を詳しく見ていきましょう。
自治体担当者が何から着手すべきかを体系的に整理したい方は、スポーツ庁の運営ガイドブックをもとにまとめた実務4ステップの記事も参考になります。
SECTION 02【事例1:広域連携モデル】長野県南佐久郡
小規模な自治体が単独で地域展開を進める際、最大の課題となるのが指導者の確保と予算の維持です。これらの課題を、近隣の町村が手を取り合うことで解決しているのが、長野県南佐久郡の事例です。
南佐久郡では、小海町、川上村、南牧村、南相木村、北相木村、佐久穂町の6町村が連携し、「南佐久郡中学校部活動運営委員会」を組織しました。
組織の特徴:事務局の一元化と費用の分担
このモデルの最大の特徴は、町村の枠を越えて1つの事務局を設置した点にあります。
合同事務局の設置で6町村の教育委員会が連携し、意思決定を一元化。町村間で公平なルールに基づき運営費を出し合うことで、1町村あたりの財政負担を軽減しました。
競技人口が少ない種目でも、郡全体から指導者を募ることで、子供たちが希望するスポーツを継続できる環境を整備しました。
成功を支えるハブ機能と移動の足
広域連携で懸念されるのが、物理的な距離と関係者間の調整です。南佐久郡では、以下の2つの工夫でこの問題を解消しています。
- 総括コーディネーターの配置:各町村の学校、地域団体、指導者の間に立ち、連絡調整を一手に引き受ける総括コーディネーターを配置しました。この存在が、行政間の縦割りを排し現場の声を素早く運営に反映させるハブとなっています。
- 公共交通機関の活用サポート:活動拠点が町村をまたぐ場合、子供たちの移動が課題となります。そこで、JR小海線などの運賃補助を実施。保護者の送迎負担を軽減しつつ、子供たちが自律して活動場所へ移動できる仕組みを整えました。
人口規模の小さい自治体にとって、広域連携は持続可能な活動を維持するための有力な選択肢のひとつです。南佐久郡のケースでは、自治体間の合意形成を基盤として、限られた資源を郡単位で集約・活用する運営体制が構築されました。
— この事例から分かること
※本事例の出典:文部科学省「事例集」掲載の南佐久郡中学校部活動運営委員会の取り組みより(記事末尾・参考資料URL参照)
SECTION 03【事例2:ハイブリッドモデル】茨城県神栖市
市内全ての部活動種目を対象に、直営と自主運営を組み合わせた「ハイブリッドモデル」を展開しているのが、茨城県神栖市です。
既存のスポーツクラブが豊富な種目もあれば、受け皿が不足している種目もあります。このような、多くの自治体が抱える地域差に対応するための実践的な仕組みといえます。
「かみす地域クラブ統括管理団体事務局」による一括サポート
神栖市では、地域クラブの運営を円滑に進めるため、行政が主導して「かみす地域クラブ統括管理団体事務局」を設置しました。この団体が窓口となり、以下の2つの形態を柔軟に運用しています。
- 直営型クラブ:市が主体となって運営するクラブ。受け皿が不足している種目を中心に運営。
- 自主運営型クラブ:既存の地域クラブや民間団体を市が認証する形態。独自のノウハウを活かせる。
この仕組みにより、ゼロから全ての受け皿を作る必要がなくなりました。活用できる民間リソースは自主運営型として認定し、足りない部分を直営型で補完するという効率的な体制を実現しています。
指導者の約5割が兼職兼業の教員
神栖市の事例で特筆すべきは、指導者の確保策です。
地域展開において誰が教えるかは最大の課題ですが、同市では指導者の約5割(20・30代の若手指導者が全体の半数以上)を、兼職兼業の許可を得た学校教員が担っています。(対象範囲は同市公表資料に基づく)
希望する教員は、兼職兼業の許可を得ることで自身の専門性を活かして地域クラブでの指導を継続でき、休日活動に対しては適切な手当が支払われます。普段学校で接している先生が指導に加わることで、保護者や生徒の不安を軽減することにも繋がるでしょう。
神栖市のモデルは、行政が全てを背負い込むのでもなく全てを民間に丸投げするのでもない、第三の道を示しています。教員の専門性を地域クラブに還元しながら統括管理団体によるガバナンスを機能させるこの手法は、直営型と自主運営型を組み合わせた運営モデルの実践例として整理されています。
— この事例から分かること
※本事例の出典:文部科学省「事例集」掲載の神栖市の取り組みより。指導者の構成比等の数値は同資料に基づく(記事末尾・参考資料URL参照)
SECTION 04【事例3:推進体制強化モデル】新潟県長岡市
地域展開(地域移行)を加速させる上で、多くの自治体が直面するのが行政組織の縦割りという課題です。
教育委員会、市長部局のスポーツ課、さらには文化振興部署など、関係各所との調整に時間がかかり、意思決定が遅れてしまうケースが少なくありません。
新潟県長岡市では、この課題に対応するために、行政と関係団体が連携する体制として「推進体制強化モデル」を構築しました。
4者連携協定による推進体制の整備
長岡市の大きな特徴は、早い段階で以下の4者による連携協定を締結した点にあります。
- 長岡市(市長部局)
- 長岡市教育委員会
- 公益財団法人長岡市スポーツ協会
- 公益財団法人長岡市芸術文化振興財団
この協定により、単なる協力のレベルを超え、市全体の重要施策として地域展開(地域移行)を推進する体制が整いました。スポーツだけでなく文化芸術活動も等しく対象に含めている点も、本事例の特徴のひとつです。
「部活動地域移行室」の設置による連携強化
組織図における最大の特徴は、専門部署である「部活動地域移行室」を設置したことです。
通常、教育委員会と市長部局は別組織として動くことが多いですが、長岡市では各部署の担当者がこの専門部署の職務を併任する形をとりました。
週1回の定例ミーティングを設けることで、各部署が抱える課題を即座に共有し、現場の課題が専門部署を通じて意思決定層に届く体制を整えています。また、学校側との窓口を一本化することで、学校現場の混乱を防ぎます。
長岡市のモデルは、既存の組織にお願いするのではなく、公式な専門部署を設置して権限と責任を明確にすることの重要性を示しています。スポーツ協会や文化財団といった実務を担う団体を連携協定の段階から参画させている点は、行政単独では対応が難しい専門領域をカバーしつつ、継続的な運営基盤を確保する体制として機能しています。
— この事例から分かること
※本事例の出典:文部科学省「事例集」掲載の長岡市の取り組みより(記事末尾・参考資料URL参照)
SECTION 05成功事例に共通する3つの視点

本記事で取り上げた3つの事例(南佐久郡・神栖市・長岡市)の取り組みを整理すると、手法は異なっても、持続可能な運営体制を支える共通の要素が見えてきます。
以下の3点は、改革実行期間(令和8年度〜)へとつなげるための実務的な土台として、各事例に共通して確認されたものです。
これらのポイントを踏まえずに進めると、地域展開(地域移行)が停滞するケースもあります。よくある失敗例については、以下の記事で詳しく整理しています。
1. コーディネーターという扇の要の配置
3事例に共通して確認されるのが、行政と現場の間をつなぐ調整役の存在です。
南佐久郡では総括コーディネーターが6町村にまたがる連絡調整を一手に担い、神栖市では統括管理団体がクラブと行政・学校の間の窓口機能を果たしています。長岡市では部活動地域移行室の担当者が各部署と学校現場の橋渡し役となっています。
このように、計画を現場の活動に落とし込む調整機能を誰がどこで担うかを明確にすることが、円滑な運営体制の前提となっています。調整役の主な役割は以下の通りです。
- マッチング:子供たちのニーズと、指導者・活動場所を適切に結びつける。
- リスク管理:活動中の事故やトラブル発生時の連絡体制を整備する。
- 合意形成:学校、保護者、地域住民との間で丁寧な対話を積み重ねる。
※全国的には、岐阜県のように県レベルでコーディネーターの連携支援体制を構築する例もあります(文部科学省・事例集より)。
2. 持続可能な財源と受益者負担の設計
3事例いずれも、国の補助金のみに依存しない財源の多様化に取り組んでいます。
神栖市では統括管理団体が直営型・自主運営型の費用負担を整理する仕組みを設け、長岡市ではスポーツ協会・文化財団との連携協定を通じて実務コストの分散を図っています。南佐久郡では町村間の負担金拠出ルールを設け、1町村あたりの財政負担を平準化しています。
各事例に共通するのは、「誰がどの費用を負担するか」を運営開始前に関係者間で合意しておく点です。活動の継続性を担保するうえで、適切な受益者負担(会費設定など)の導入についても、保護者への丁寧な説明を前提に検討することが求められます。
自治体ごとの月謝相場や受益者負担の考え方については、以下の記事をご覧ください。
3. 安全と質を担保する認定・ガバナンスの仕組み
神栖市では統括管理団体による認証制度を設け、自主運営型クラブの質を公的に担保する仕組みを整えています。長岡市では4者連携協定のもと、スポーツ協会・文化財団が指導の質やコンプライアンスの水準を担う体制としています。
保護者が安心して子供を預けられる環境を整えるためには、クラブの運営状況を公的に可視化する仕組みが有効です。認定・ガバナンスの整備にあたって参照される主な項目は以下の通りです。
- 安全管理:スポーツ安全保険への加入、救急救命講習の受講。
- 指導の質:指導者資格の保有、コンプライアンス(体罰・ハラスメント防止)の徹底。
- ガバナンス:適切な会計処理と、活動計画の公開。
※北海道北見市など、一定基準を満たしたクラブを市が認定する「認定制度」を正式に導入している自治体もあります(文部科学省・事例集より)。認定制度の詳細な設計にあたっては、先行自治体の事例を参照することをおすすめします。
SECTION 06【参考】財源確保の多様な取り組み事例
持続可能な財源の確保は、全国の自治体共通の課題です。以下は、独自の手法で財源を確保している参考事例です。状況に応じて活用可能な手法を検討する際の参考としてください。
- 茨城県守谷市:ふるさと納税型クラウドファンディングを財源として活用し、新しいクラブの創設費用や必要な用具の購入、指導者研修費用などに充てることで、持続可能で充実した活動環境を整えています。
- 長崎県長与町:地元企業からの寄付を募ることで、地域全体で子供を育てる仕組みの強化につなげています。
これまで部活動には費用負担がなかった地域も多いですが、指導者への謝礼や保険料を賄うための持続可能な会費設定が、各地の事例で導入されています。国のガイドラインでも受益者負担の考え方が示されており、保護者への丁寧な説明と合意形成を前提に検討することが求められます。
SECTION 07まとめ:自らの自治体の規模と資源に合わせた型を選び取る
部活動の地域展開において、全国一律の正解は存在しません。今回ご紹介した3つの事例も、人口規模や既存リソースといった地域の実情に合わせて最適化された結果です。
令和8年度からの改革実行期間に向け、まず自治体担当者様が取り組むべきは、自らの地域の正確な実態把握です。子供たちのニーズ、地域の指導者の数、そして既存団体の意向を丁寧に把握することが、体制構築の出発点となります。
体制構築に向けた最初の一歩として、本記事末尾に掲載した参考資料のご確認をおすすめします。文部科学省が公表しているガイドブック(令和8年3月)と事例集には、自治体規模別の運営モデルや財源設計の実例が収録されており、庁内検討・議会説明の資料としても活用できます。
あわせて、自団体と規模・条件の近い先行自治体への直接ヒアリングも有効です。現場での試行錯誤から得られた知見は、公開資料には載っていない実務上の判断材料を多く含んでいます。
完璧な体制を最初から整える必要はありません。参考資料の確認とヒアリングを起点に、実情に合った型を少しずつ形にしていくことが、持続可能な地域展開(地域移行)への確実な一歩となります。
SECTION 08参考資料URL
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