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インタビュー

東京都大田区の部活動外部委託の事例|平日も含む地域連携の設計

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  • 学校・教員
公開読了 13分
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東京都大田区は令和7年度から、区立中学校7校31部活の管理運営を当サイトの運営会社である株式会社アーシャルデザインへ委託しています。

対象範囲には、休日だけでなく平日も含まれます。指導者の採用から学校・保護者との調整、管理・運営機能まで、必要なプロセスを外部パートナーと二人三脚で組み立てていく伴走型の設計です。令和8年度には、9校45部活へ拡大します。

この体制はどう組み立てられたのか、現場責任者に運営の実際を聞きました。

SECTION 01この取り組みの概要

項目内容
自治体東京都大田区(区内に1万人を超える中学生が在籍)
事業名区立中学校の部活動 管理運営等業務委託
規模7校31部活(令和7年度)→ 9校45部活(令和8年度)
対象範囲平日・休日の両方を含む
委託先株式会社アーシャルデザイン
委託の範囲指導者の配置と管理運営、学校・地域団体・保護者との連携体制構築、管理・運営機能の代行、指導者研修・保護者説明会の支援
保護者の費用負担なし
立ち上げ期間受託から運用開始まで約1か月

話を聞いた人

  • 担当者

(編集部注)文部科学省のガイドラインは、部活動改革の取組を二つの類型に分けています。生徒の活動を学校部活動から地域クラブ活動へ移すのが「地域展開」(従来の「地域移行」から改称)、学校部活動のまま外部の指導者の配置や合同部活動を行うのが「地域連携」です。両方をまとめて指すときは「地域展開等」と呼びます。大田区の取り組みは、このうち地域連携にあたります※1。

SECTION 02この事業の本質は「顧問の代行」にある

編集部
編集部:

大田区の部活動の地域連携は、どのような設計になっているのでしょうか。

担当者
担当者:

指導者の採用と配置から、学校・地域団体・保護者との調整、管理・運営機能まで、必要なプロセスを外部のパートナーと二人三脚で組み立てていく形です。運営を民間に丸ごと委ねるのでもなく、これまで通り教員に頼り続けるのでもない。いわば伴走型の委託です。

編集部
編集部:

大田区がこの地域連携に踏み込んだ動機は、どこにあったのでしょう。

担当者
担当者:

二つに集約されると考えています。一つは教員の働き方改革、もう一つは子どもたちの活動そのものの充実です。教員の負担を軽くしながら、専門の指導者による指導で子どもたちの活動をむしろ充実させていく。負担減とサービス向上を同時に実現する、この両立が狙いだと受け止めています。

背景にあるのは、教員の負担という構造的な問題です。国際教員指導環境調査(TALIS)では、日本の中学校教員の勤務時間は週56時間と、調査参加国のなかで最長でした。このうち課外活動の指導は週7.5時間で、参加国平均の1.9時間の約4倍にあたります※2。

編集部
編集部:

この地域連携は平日も対象に含んでいます。運営にはどう影響しましたか。

担当者
担当者:

この事業の本質は「指導の代行」ではなく、「顧問の代行」にあります。顧問の代わりを務めるというのは、技術指導にとどまらず生徒指導の領域が避けられないということです。

編集部
編集部:

生徒指導の領域が避けられないことが、そのまま運営上の課題になったわけですね。

担当者
担当者:

はい。指導者の採用と、生徒指導。この二つに、立ち上げ初期から向き合うことになりました。

編集部
編集部:

立ち上げには、どのくらいの期間が確保されていたのですか。

担当者
担当者:

受託から運用開始まで、およそ1か月です。制度設計の議論では見えない運用の細部を、短期間で一気に立ち上げる必要がありました。

SECTION 03指導者採用が大きな課題

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編集部
編集部:

平日の指導者はすぐ見つかったのでしょうか。

担当者
担当者:

いいえ。休日だけでなく平日にも決まった学校へ通える指導者は、都市部であっても簡単には見つかりません。募集の間口を広げれば多くの方と出会えますが、その学校・その競技に求められる専門性と合うとは限りません。反対に、専門性の高い方に絞るほど、平日に通える方は限られていきます。この両立の難しさに、大田区でも向き合うことになりました。

編集部
編集部:

当社は約2,000名の指導者ネットワークを持っていると伺いましたが、それでも難しかったのですか。

担当者
担当者:

教員経験者、指導実績者、有資格者を中心に構成しているネットワークがありますが、「平日」「特定校」「特定競技」という三つの条件が重なると、マッチングは一気に難しくなります。

編集部
編集部:

どう埋めたのでしょう。

担当者
担当者:

大きかったのは、指導者の求人に特化した自社メディア「AthleteBox(アスリートボックス)」の存在です。スポーツ指導者に的を絞った採用チャネルを自前で持つことで、条件の重なる募集でも専門性と意欲をお持ちの方に出会いやすくなります。必要な指導者の8割ほどは、AthleteBoxを通じて出会えた方々です。

編集部
編集部:

残りの2割は。

担当者
担当者:

地域のスポーツ団体に直接お電話するなど、こちらから指導者の方にお声がけしました。

SECTION 04生徒指導は外部指導者にどこまで任せるかが論点

編集部
編集部:

平日を含めると生徒指導が避けられない、というお話がありました。この体制はどう組んだのですか。

担当者
担当者:

指導者の皆さんは競技指導の意欲や経験がありますが、学校での生徒指導に携わってきた方ばかりではありません。ここで鍵になるのが、当社によるコーディネートでした。顧問や管理職としっかり協議し、「何を、どこまで対応するのか」の線引きを事前に十分に行う。そのうえで、協議した内容や現場で実際に起きたリアルな事例を、指導者へ共有していきます。

編集部
編集部:

研修はどう設計されていますか。

担当者
担当者:

意識づけを一過性で終わらせないため、夏と冬に定期研修を実施しています。指導者同士のグループディスカッションに加えて、スポーツメンタルコーチが登壇する「生徒と指導者のコミュニケーション講座」を設けました。聴く、伝える、引き出すという関わり方の質を高めることが狙いです。指導者には部活動指導員検定の受講もお願いしています。理念の共有と、明日の現場で使える具体策を同じ場で扱うのが特徴です。

編集部
編集部:

研修では、実際の事例も共有されていると伺いました。

担当者
担当者:

ケーススタディとして共有しています。きれいごとではない部分ですが、二つ挙げますね。

一つ目は、生徒の暴言や指導者への反抗が横行し、指導が難しくなった件です。指導者が生徒指導を試みても行動が変わらず、指導者が困り果てていました。このときは当社・顧問・管理職が連携しています。学校側で当該生徒に生徒指導を実施し、顧問と管理職が生徒から、当社が指導者から聞き取りを行いました。内容をすり合わせて方針を確定し、保護者へ今後の指導方針を説明しています。

二つ目は、練習中に生徒の目にボールが当たり、痛みを訴えた件です。平日で顧問と管理職も在校していたため、指導者はすぐ学校と連携し、当社へも報告しました。悪化の懸念も踏まえて受診を判断し、指導者が病院に同行して保護者へ引き継いでいます。

編集部
編集部:

二つに共通する設計思想はありますか。

担当者
担当者:

指導者を一人にしない、という原則です。顧問・管理職・当社・保護者をつなぐ連絡経路をあらかじめ設計し、緊急時にも「誰に、どの順番で連絡するか」を全指導者に徹底しています。

SECTION 05外部の指導者と生徒とのかかわり方

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編集部
編集部:

指導者と生徒の相性は、実際に指導に入っていただくまで分からない部分です。大田区ではどう扱っていますか。

担当者
担当者:

指導に入っていただいて終わりではありません。指導者と生徒・保護者の相性、指導の厳しさの受け止め方は、現場で一緒に過ごすなかで初めて見えてくる部分が大きいです。

そこで、問題が起きたときは「事実を確認する、学校と保護者を交えて開かれた場で協議する」という手順を踏みます。交代ありき、継続ありきのどちらにも決め打ちせず、その都度、学校とともに最適解を作ってきました。

編集部
編集部:

実際にあった場面を伺えますか。

担当者
担当者:

指導の厳しさをめぐって、部内の評価が割れた件です。熱心ではあるものの指導が非常に厳しく、一部の部員が「行きたくない」と追い込まれるほどでした。その一方で、「素晴らしい指導者だ」と高く評価する部員・保護者もいたんです。

まず指導を一旦停止し、部員へアンケートを実施して実態を把握しました。指導者交代の方針を一度は示したものの、保護者説明会で賛否が真っ二つに割れたため再協議となります。最終的には、男女双方が引き続き活動を続けられる仕組みを学校と話し合い、取り決めをまとめました。

編集部
編集部:

交代が発生することを、体制としてどう位置づけていますか。

担当者
担当者:

交代は失敗ではなく、体制が機能している証でもあると考えています。合わない相性を放置せず、生徒の声を起点に止める判断ができること。そして保護者の賛否が割れても、学校と一緒に着地点を作れること。この二つがあるからこそ、学校の外から来ていただく指導者との運営が、信頼に足るものになります。

SECTION 06委託開始前の保護者説明会で問われたこと

編集部
編集部:

事業の開始前に、保護者からはどんな意見が挙がりましたか。

担当者
担当者:

安全管理、情報共有、どのような方が指導にあたるのかの三点です。

安全管理については、緊急対応フローと、保護者の緊急連絡先の共有についてご説明しました。情報共有については、システム・アプリを活用し、適切かつセキュリティが担保された状態で行うとお伝えしています。指導にあたる方については、当社の採用・研修体制を共有しました。

編集部
編集部:

費用面はどうなっていますか。

担当者
担当者:

大田区の地域連携では、保護者の費用負担はありません。

編集部
編集部:

問題が起きた後の説明会では、何を問われますか。

担当者
担当者:

決まって三つです。「指導者はどんな研修を受けていたのか」「未然に防げなかったのか」「今後どう対応していくのか」。

この三つに、実施している研修体系・再発防止の仕組み・今後の対応方針を具体的に示して答えることが、信頼回復の起点になります。ごまかさず、体制として何をしているかを見せることが、外部委託への安心につながっていく。そう実感しました。

編集部
編集部:

日々の安全管理は、どう組み込まれていますか。

担当者
担当者:

研修資料にも盛り込む熱中症対策に加え、安全管理スタッフが現場に入り、指導の様子を定期的に視察しています。指導者を一人にしない連絡フローと、この第三者の目。二つが重なることで、事故やトラブルの芽を早期に捉える二重の仕組みになりました。

SECTION 07管理・運営機能は月190時間から55時間へ

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編集部
編集部:

管理・運営機能は、どのように設計されていますか。

担当者
担当者:

地域展開等の持続性は、日程調整・会場や鍵の管理・欠員時の手配・保険・謝金支払い・緊急連絡といった、地味な管理・運営機能が回るかどうかにかかっています。

従来、これらはスケジュール管理、活動報告レポート、支払いの取りまとめ、日々の連絡と、業務ごとにバラバラのシステムを横断して処理されていました。

編集部
編集部:

大田区ではどう変えたのですか。

担当者
担当者:

これらを一括で扱える自社運営のDXツール「b+(ビープラス)」を実装しました。その結果、年間約9,000コマ(30部活)に及ぶ活動の事務工数を、1名の事務スタッフで問題なく支えられる水準まで圧縮しています。月190時間から55時間へ、率にして71%の削減です。

b+導入による業務改善の内訳(編集部整理)※3

業務導入前の方法 → 導入後導入前導入後削減率
出欠確認・管理LINE・メールでリマインド → 全自動リマインドと体調確認の配信20h5h75%
会費徴収・入金確認口座振込・現金手渡し → キャッシュレス決済30h10h67%
指導者スケジュール調整Excel管理 → 一元管理とCSV一括投入30h5h83%
指導者への謝金計算Excelで計算し明細発行 → 自動計算と明細の自動作成50h10h80%
活動報告書の作成Wordで手打ち → 活動記録の一括出力20h3h85%
保護者からの問い合わせ電話・メールで受付 → チャットで完結(緊急時のみ電話)20h10h50%
各種連絡・通知LINE・メール・電話が混在 → チャットで完結10h7h30%
その他事務作業各自のローカル環境で実施 → ツール上にデータを保持10h5h50%
合計(月あたり)運営業務を一元化190h55h71%

SECTION 081年目の到達点と令和8年度の拡大

編集部
編集部:

1年目の成果を、どう評価していますか。

担当者
担当者:

指導者の皆様のお力もあり、平日・休日を通じた運営体制を確立できました。事務工数は月71%削減し、少人数でも持続可能な運営基盤を構築しています。研修と連絡フローの整備により、生徒指導・事故・ハラスメントといった難所にも、組織として対応できる体制が定着しつつあると感じています。

編集部
編集部:

教員の負担は、実際に軽くなったのでしょうか。

担当者
担当者:

残業時間は軽減されています。とくに顧問の先生からは、子育て中・介護中の教員にとって「平日・休日を含めて非常に助かっている」という声を直接聞いています。

SECTION 09これから着手する自治体が最初に決める三つ

編集部
編集部:

同じ形を検討する自治体が、最初に決めておくべきことは何でしょう。

担当者
担当者:

三つあります。

一つ目は、業務範囲の線引きです。委託会社がどこまでを業務として担い、どこからを学校が対応するのかを、事前に明確にすることが望ましいです。

二つ目は、保護者の緊急連絡先の取り扱いです。部活動の場合、その取得・管理を教育委員会が行うのか、事業者が行うのか。個人情報の所在を最初に確定させます。

三つ目は、生徒指導の役割分担です。生徒指導をどこまで指導者が担い、どこからを学校と連携して対応するのか。この境界線を先に握っておくことです。

編集部
編集部:

事業者を選ぶときは、どこを見ればいいでしょう。

担当者
担当者:

指導者を「採用できること」は大前提です。そのうえで、指導者が力を発揮し続けられるよう、現場をより良くしていくための研修やフォロー体制を持っているかどうか。

もう一つは、地域展開等を中長期で捉え、自治体が目指すゴールに伴走できる事業者かどうかです。指導者を単発で紹介するだけでなく、継続的なサポートの視点があるかを見ていただきたいです。

編集部
編集部:

最後に。大田区の1年から、他の自治体が持ち帰れることは何でしょうか。

担当者
担当者:

部活動改革とは、指導を外注することではありません。子どもたちの「放課後」を、地域全体で残し続けるための顧問機能そのものを引き受け直すことです。

技術を教える以上に、子どもを育てる責任と、それを支える運営を誰が担うか。そこにこそ、成否がかかっていると考えています。

SECTION 10出典・参考資料

※1 出典:文部科学省「部活動改革及び地域クラブ活動の推進等に関する総合的なガイドライン」(令和7年12月)の「取組の類型・名称(地域展開・地域連携)」

※2 出典:OECD「国際教員指導環境調査(TALIS)」

※3 出典:株式会社アーシャルデザイン「b+の導入による削減工数目安」

参考資料

  • 文部科学省「部活動改革及び地域クラブ活動の推進等に関する総合的なガイドライン」(令和7年12月)
  • 株式会社アーシャルデザイン プレスリリース「東京都大田区から部活動管理委託業務を受託」(2025年6月19日、PR TIMES)
  • 大田区教育委員会「部活動管理運営等業務委託に係る公募型プロポーザルの選定結果について」
  • 株式会社アーシャルデザイン「大田区部活動管理運営等業務委託 指導者講習会(第一回)」配布資料
  • 株式会社アーシャルデザイン「指導者と生徒のより良いコミュニケーション」研修資料

関連ワード

  • 部活動 外部委託
  • 地域連携
  • 大田区
  • 部活動指導者
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